日本学術振興会:科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究期間 : 2011年 -2012年
代表者 : 清野 諭
平成23年度におこなった検討では,身体的虚弱の把握において,9項目の身体パフォーマンステストの中で通常歩行速度が最も有用な指標となる可能性が示唆された.平成24年度は,老年症候群(尿失禁,転倒,低栄養,抑うつ,生活機能低下)の複数兆候の把握において,身体パフォーマンステストを組み合わせることの有用性を通常歩行速度との比較から検討することとした.
本研究では,75歳以上の高齢女性340名を対象とした.身体パフォーマンステストとして,通常歩行速度と,タンデムバランス,5回椅子立ち上がり,ステップテスト,timed up & goの4項目から成る身体パフォーマンス合成得点を測定した.尿失禁,転倒,低栄養,抑うつ,生活機能低下の有無を質問紙によって調査し,これら5項目中2項目を保有する者を老年症候群の複数兆候ありと定義した.receiver operating characteristic (ROC)解析とロジスティック回帰分析によって,通常歩行速度と身体パフォーマンス合成得点のどちらがより老年症候群の複数兆候をよりよく把握できるかを検討した.
その結果,通常歩行速度と身体パフォーマンス合成得点を連続変数として扱った場合では,両者はほぼ同等に老年症候群の複数兆候を把握できた(いずれもarea under the ROC curve=0.80).しかし,通常歩行速度と身体パフォーマンス合成得点が低下した場合においては,通常歩行速度(オッズ比=7.6,95%信頼区間=3.6-15.9)のほうが身体パフォーマンス合成得点(オッズ比=5.2,95%信頼区間=2.5-10.6)よりも強く老年症候群の複数兆候に関連していた.
以上の一連の検討結果より,通常歩行速度のみで虚弱化を一元化して把握できることが示唆された.